東京 歌詞の意味・魅力考察 浜田省吾
東京
「東京」は1980年に発売された浜田省吾6枚目のアルバム「Home Bound」に収録されている楽曲であり、東京における貧富の差をテーマとして描いた歌詞が特徴的な楽曲となっています。
省吾さん自身が「第二のデビューアルバム」と語る「Home Bound」において、収録曲の歌詞は全てアメリカで書かれており、愛とお金をテーマとする「丘の上の愛」、音楽で成功しスターとなった主人公が挫折や裏切りを経験し、自分にとって本当に大切な愛と夢を追い求めるストーリーが魅力の「終わりなき疾走」、そして無機質な都市における格差と憂いを歌った「東京」など、ファンの間で長年愛される名曲揃いであり、特に「東京」においては時代を経て尚リアリティの増す歌詞が魅力です。
また「東京」は、1980年の幕開けと同時に発売され当時大ヒットとなっていた沢田研二の「TOKIO」へのアンサーソングであることでも知られています。
糸井重里さんが作詞した「TOKIO」は、東京の華やかな生活や成長を続ける日本の未来への希望を感じさせる内容が魅力の楽曲です。
そんな「TOKIO」に対し、省吾さんが「東京」というアンサーソングにおいてどのようなメッセージを込めたのか、その歌詞と魅力をご紹介します。
歌詞概要
「東京」の冒頭では、街を彷徨う若者と、広がり固定化する貧富の差、そしてそんな社会の中で生きる大人の姿が所謂資本主義の成功者と職探しに喘ぐ両極端から描かれます。
1980年当時、高度経済成長を経て成長を続ける日本にあって、省吾さんの捉えた社会と歌詞で描かれる「東京」という街の姿は、現代の日本において、よりリアルに感じられます。
格差が広がり、街を彷徨う生活の中で疲弊していく生活。
狭い部屋で、あらゆる情報と購買欲を掻き立てる情報を垂れ流すTVメディアが資本主義を象徴し、それに毒されている東京を表している歌詞が特徴です。
東京における生活の中で変わってゆく自分と、疲弊していく人達。
そして、やがて将来に希望を持てず、街に呑まれて過去を飾り立て振り返るばかりの懐古主義に成り下がってしまう。
人工物に囲まれ、豊かさも安らぎもなく、生きることに希望を見出せない叫びが歌詞に表れており、リアリティに溢れています。
毎日のように満員電車に押し込まれて仕事へと出かけてゆく疲れ果てた大人達。
一方子供達は学校という窮屈な檻の中で資本主義を支える労働者として個性も何も顧みない教育のもと潰されてゆく。
それらを他人事として、自らと社会に未来はないと悟り口を閉ざす老人。
誰もが明るい明日を夢見ることができない、そんな社会に生きていることが感じられる歌詞となっており、胸に刺さります。
資本主義の名の元に、人間らしい自然的な生活とはかけ離れたジェット機が地上を掠めるように飛んでいく姿から、豊かな社会を夢見て切り捨て失ったものと、手にした生活の歪なバランスが感じられます。
今日よりも豊かな明日を信じ発展を続けた先で、行き過ぎた物質主義と資本主義の中で明るい未来を思い描けなくなった社会。
まるで急かされるようにそんな社会に身を投じ、毎日の中で束の間の愛情や温もりを求めて疲弊していく人生。
そんな社会とそこに生きる人々に疑問を投げかけ、誰にとっても豊かで明るい社会となるよう、1980年という新しい時代から新しい日本を作っていきたい、そんな希望と願い、そして現実を変えたいという叫びが込められた歌詞のようにも感じます。
歌詞の魅力考察
ここまでお読み頂いた通り、省吾さんの「東京」は、行きすぎた資本主義や物質主義のもたらす貧富の差の拡大と固定や、絶対的な価値観のみを追い求める価値観に対する反発がメッセージとして歌詞に込められているように感じます。
そして、そのメッセージは、発表から40年以上が経った今、より大きなリアリティを伴って聴き手の心に深く響きます。
冒頭で、省吾さんの「東京」は糸井重里さんが作詞した沢田研二の「TOKIO」に対するアンサーソングだとお伝えしました。
以下に、その「TOKIO」の歌詞をご紹介します。
https://www.uta-net.com/song/3241/
「TOKIO」は、1980年1月1日に発売され、正に好景気に沸く1980年代の幕開けと明るい未来への期待をテーマとする楽曲です。
そんな、東京の華やかな一面を強烈に伝える「TOKIO」に対し、省吾さんは東京の影の部分を色濃く盛り込んだ楽曲をアンサーソングとしてリリースしました。
その結果、リリース当時ムッシュかまやつに酷評されたというエピソードはファンの間では有名です。
それだけ、1980年当時の人々が描く「東京」は、明るく華やかなものだったのだと思います。
しかし、プラザ合意に端を発するバブル経済がはじけ、失われた20年とも30年とも言われる時代を経て、経済停滞や人口減少が相まって今尚先の見えない状況にある日本においては、省吾さんの「東京」の歌詞はとても大切な真実を伝えているように感じられます。
過ぎた時代を懐かしみ、時代のせいだと諦め、明るい明日が来ないと諦めてしまう。
東京はいずれそんな街になってしまう。だからこそ、本当の意味での豊かさと明るい未来を探すように生きていかなければならない。
そして、現代になって改めて振り返り、その意味を噛み締めてみると、省吾さんが明るく華やかな「TOKIO」に対するアンサーソングとして作った「東京」の持つメッセージに込められた洞察の鋭さに驚かされると同時に、これこそが社会派と言われる浜田省吾の歌詞の魅力であると、そう強く思います。
最後に
最後までお読み下さりありがとうございます。
「東京」は、広島から東京に出てきてロックシンガーとしてその人気を確固たるものとした省吾さんの光と影、その葛藤やこの国の将来に対する憂いを読み取ることのできる名曲です。
省吾さんの歌詞の魅力として、聴く人によって多くの解釈ができる歌詞が魅力という点は他の記事でも再三ご紹介している通りですが、時代背景や他の楽曲と合わせて考えてみると、更に多くの気づきやメッセージを見出すことのできる点が、この「東京」の特筆すべき魅力であり、ファンに愛される理由の一つではないかと思います。
最後に、「東京」が初収録されたアルバム「Home Bound」と、「The Best of Shogo Hamada vol.3 The Last Weekend」をご紹介しますので、興味を持って下さった方はぜひ聴いてみてください。