僕と彼女と週末に The Last Weekend 歌詞の意味・魅力考察 浜田省吾
僕と彼女と週末に
1982年発表の浜田省吾8枚目のアルバム「PROMISED LAND〜約束の地」収録曲であり、アルバムのラストとなる11曲目を飾る楽曲です。
また、2011年4月から始まったコンサートツアー「ON THE ROAD 2011″The Last Weekend” 」の副題ともなっており、時代を超えてリメイクされ聴き続けられている名曲です。
曲名の”Weekend”は恋人達の”週末“と人類/地球の”終末“を表すダブルミーニングとなっており、その曲名が表す通り恋人達が過ごす週末のストーリーを通じ、人類と地球の行く末に対する憂い、メッセージを伝える壮大な楽曲となっています。
「PROMISED LAND」に収録されているver.は約9分であり、後に発売されたベスト盤である「The Best of Shogo Hamada vol.3 The Last Weekend」に収録されているリメイク版は約11分という大作となっており、そのメッセージ性と歌詞の合間の語りの部分等と相まって単なるJ-POPやロックの枠には収まらない存在感を放っており、正に省吾さんにしか書けない歌詞とメッセージに溢れた、現代の社会にも通じるメッセージが多分に詰まっている名曲です。
アルバム「PROMISED LAND」のジャケットは「FLAMMABLE」と書かれた核弾頭とその前に立つ省吾さんという構図になっており、反核や社会への想いが読み取れます。
省吾さん自身このアルバムを「父親の棺の中に入れた」と発言しているほどの傑作であり、その中にあって一際大きく壮大なメッセージを持つ「僕と彼女と週末に」は正に全世代に聴いてほしい名曲となっています。
「歌とはこうあってほしいという”祈り”のようなもの」と話す省吾さんの強い想いが込められており、聴き手それぞれに人生やこの世界について深いメッセージを届けています。
歌詞概要
https://www.uta-net.com/song/38564/
「僕と彼女と週末に」は、地球の行く末を案じるメッセージから始まります。
冷戦終結前の1982年という時代は、正に各国がそれぞれの陣営に分かれ覇権を争っていたパワーゲームの時代であり、形は変われどその構造は現代にも続いています。
そして、そのパワーゲームであるところのシーソーゲームから逃れる術はなく、利益を取り合う末に崩れていく環境や世界への憂慮が伺えます。
人間は誰しも自分が一番可愛く、一瞬の快楽や目先の利益を優先して生きている。
若しくは、地球/宇宙規模から見た人生の短さ、儚さを伝えているようにも感じられます。
その裏で犠牲になり失われるものも多く、ここの歌詞が伝えるメッセージはヘミングウェイの「誰が為に鐘はなる」の影響を受け作られた「詩人の鐘」にも通じるものがあります。
目先の利益や短期的な欲求を追い求めることにより壊れてゆく世界で、子供は将来に希望を持てず、夢を見ることができない。
正に現代社会の抱える問題の一側面を強烈に切り取っている内容であり、時代を経て色褪せるどころか、1982年から今に至り、より深みが増している歌詞となっています。
そして、歌の中に当時する「君」とは「子供達」を指しており、子供の人生、命、将来を守りたいというメッセージが歌われています。
それは、戦争がなく子供の命が奪われない社会にしたいという願いや、本当の意味で地球と共存する豊かな社会をつくりたい、というメッセージとも解釈できます。
子供が将来を夢見ることのできない社会になっている現実、刹那的な快楽や目先の利益を優先し子供たちの未来を奪っている事実。
それでも、人の心の本質は愛であり、いつの日か子供達の明るい未来を創れるように、人の行動や考え方が変わるように愛し慈しむ心を信じたい。
そんなメッセージを感じられる、非常に深く、聴く人によって様々な解釈ができる部分です。
良くも悪くも人の営みは続いており、過去から現在までそれらは繋がっています。
昨日より今日、今日より豊かな明日を目指して歩みを進めてきたはずが、目先の利益を追い求めるあまり、気がつけば汚染された環境や後戻りのできない荒んだ社会が残されている。
今、そしてこれからを生きる子供達はその荒んだ社会の先に未来を描くしかない。
なんとも重く深い内容であり、ある種の真実を浮き彫りにしています。
欲望のままに生き何も顧みない結果が何をもたらすのか、その結末を考えずにはいられません。
そして、資本主義経済に傾倒し何もかもを商品として売ろうとする社会、それは売る側の社会と買う側の人間がいて成り立っています。
そんな資本主義社会へ警鐘を鳴らし、未来を憂うメッセージは「PROMISED LAND」の2年後に発表された「MONEY」、4年後に発売された「J.BOY」へと引き継がれています。
欲望を最優先し、自らが世界の中心であり万能だと勘違いした人類は、その力の使い道を誤っている、そう警鐘を鳴らしています。
深刻な環境汚染や公害を引き起こす科学技術、一方では未だに完全な処理方法が見つかっていない原子力を指していると考えることもできる歌詞からは多くのことを考えさせられます。
人類が扱うには大きすぎる力を、目先の利益を追い求めて長期的な安全性や展望を考えることなく使用した代償として何がもたらされるのか、それがこの楽曲の大きなテーマであり、発売から今まで聴く人の心に大きな問いかけをしている理由です。
また「僕と彼女と週末に」では、曲の合間の語り部分が特徴であり、省吾さん曰く、その語り部分は歌詞としてメロディに乗せるには長すぎたものの、この部分のメッセージを省きたくなかったため、語りとして反映させることになったそうです。
語りの前半では、恋人達の何気ない週末の姿が描かれます。
会社の愚痴や生活のこと、好きなもののことについて話す平凡であり幸せな将来を見据えていることが伺える、そんな二人です。
後半では、週末の夜を過ごした恋人達の翌朝の様子が語られます。
翌日目を覚まし、原因の分からない体調不良に苦しむ二人。
気晴らしに外出し向かった海で、大量の魚の亡骸を目の当たりにします。
そして、体調不良の原因が、昨日の海での遊泳にあったことを知ります。
この部分は元々、省吾さんが幼少期を過ごした広島での公害による水質汚染の体験を元にしています。
そして現代で考えると、この部分はやはり原発を想起させます。
語りの部分のストーリーはあくまでフィクションですが、現代社会における諸問題について深く考えさせられる部分であり、時を経て色褪せるどころか、より大きな意味を持って聴き手に大切なメッセージを投げかけているように感じられます。
恋人達のストーリの後、子供達への想いが語られます。
子供達に伝え残すのは悲惨な現実と暗い将来の見通しではなく、人間がどのように夢や希望を繋いで生きてきたか、この社会がどれだけ豊かで明るくなるかという点であると、そのようなメッセージを伝えています。
確かに、暗いニュースは多く悲劇的な事件も少なくはない。
この社会の未来の明暗は今を生きる人間に委ねられており、最終的にどこへ向かうのか、その未来が明るいのかどうか分からない。
それでも、そんな時代だからこそ人の愛を信じたい。
人の本質は光であり、その輝きを信じたいと歌う省吾さんには「PROMISED LAND」や「僕と彼女と週末に」全体を貫く重く暗いテーマとは裏腹に諦めや絶望は感じられず、人への信頼や愛を感じます。
歌詞の魅力考察
社会派と言われる省吾さんの一つの到達点であり代表となる楽曲がこの「僕と彼女と週末に」でふ。
省吾さんの楽曲はよく「プロテストソング」と表現され、特に1980年台に発表された楽曲にそう呼ばれているものが多いと感じます。
アルバム「PROMISED LAND」の4年後の1986年に発売された「J.BOY」等もそうであり、大きなテーマ・問題を聴き手に問いかけてくる名曲です。
確かに、政治的な色やメッセージが含まれている楽曲が多いことは間違いありません。
しかし、楽曲のメッセージの核が所謂「プロテスト」であるかというと、私は違うと考えています。
省吾さんの楽曲の核は人の「迷い」や「葛藤」にあります。
それは、省吾さんを代表するラブソングにも共通するものであり、正解や道標が無い中でどのように自分と向き合い生きるべきか、どこへ向かうべきか、という普遍的な問いとも言えるメッセージを持っています。
そこには諦めや絶望ではなく、寧ろ人への愛や励ましが溢れています。
迷い傷ついて時に立ち止まっても、前を向いて進む。
そういったメッセージが込められているからこそ、迷った時に立ち返ることができる楽曲となり、何度も繰り返し時代と世代を超えて聴き継がれる名曲になるのだと思います。
また、楽曲の持つメッセージも時代と共に変化し、時により重大な意味を持って聴き手に語りかけてきます。
「僕と彼女と週末に」は正にそういった名曲の一つであり、壮大なテーマを扱いつつも聴き手それぞれの人生に語りかけてくる強いメッセージを持っています。
そして、そのメッセージは時と共に意味合いを変え、その時その時で何をすべきか、どこへ行くべきか、その迷いと葛藤に対する答えを考える手助けとなります。
だからこそ、時代を超えて聴き継がれており、多くの世代に知ってほしいと考え、今回歌詞と魅力をまとめました。
浜田省吾さんのファンとして知られるミスター・チルドレンの桜井和寿さんもBank Bandにおいて「僕と彼女と週末に」をカバーしており、時代を超えて歌い継がれています。
また、「僕と彼女と週末に」と同じく平和への祈りや願いをテーマとしている「アジアの風 青空 祈り」も省吾さんのファンのみならず多くの方に聞いて欲しい名曲となっていますので、気になる方は是非以下まとめも合わせて読んで頂けると嬉しいです。
加えて、同じ「PROMISED LAND」から、単調で画一的な閉塞感のある街と人生から出ていくことを願う青年の姿と願いを通じて、自分にとって本当に大切なものと豊かな人生について考えさせられる「マイホームタウン」も非常に聴き応えのある名曲ですので、良ければ合わせてご一読下さい。
最後に
最後までお読み下さりありがとうございます。
「僕と彼女と週末に」は、省吾さんらしさの詰まった正に名曲ですが、オリコンチャートやJ-POPのランキングを席巻し爆発的な人気を獲得するような楽曲ではないのかもしれません。
しかし、聴いた人全てを惹き込む魅力と強いメッセージに溢れており、だこらこそ既に省吾さんのファンの方にもそうでない方にも聴いて、好きになって欲しいと考えています。
是非、この文章を読んで興味を持って頂けた方は、一度実際に聴いて頂ければと思います。
省吾さんの公式YouTubeチャンネルには「僕と彼女と週末に」の動画はありませんが、2011年に開催された「ON THE ROAD 2011 “The Last Weekend”」の動画がありますので、以下にリンクとアルバム情報ご紹介します。