MONEY 歌詞の意味・魅力考察 浜田省吾
浜田省吾を代表するロックナンバーである「MONEY」について歌詞の魅力と考察をまとめます。
バブル景気を目前とする1984年に発表された「MONEY」は、資本主義に傾倒する社会とそこに生きる人の姿を強烈に描く歌詞が時代を超えて愛され続ける名曲です。
MONEY
「MONEY」は浜田省吾の9枚目のアルバム「DOWN BY THE MAINSTREET」の1曲目に収録されている楽曲です。
アルバムの主人公は省吾さん自身を投影した少年であることをご本人が語っており、アルバムを通して省吾さんが生まれ育った広島県呉市周辺の工場地帯がモデルとなっています。
ホリプロから自身で設立した個人事務所「Road&Sky」に移ってから発表した最初のオリジナルアルバムであり、省吾さんの作りたい音楽、伝えたいメッセージが色濃く反映されたアルバムです。
その一曲目を飾る楽曲がこの「MONEY」であり、高度経済成長期を経てバブル経済へと向かっていく社会とそこに生きる人間のメンタリティを歌詞に落とし込んでいます。
金こそが全てであり物質的な豊かさをひたすらに追い求める社会、そこに生きる主人公の現実と葛藤、そして怒りが描かれています。
歌詞概要
https://www.uta-net.com/song/4277/
「MONEY」は、自分の生まれた街とそこで生きていく未来に希望が持てず、街を出る若者の姿からストーリーが始まります。
街に漂う閉塞感とそこに見出せない豊かな未来を掴むために苦悩し、どうにか生活を良くしようともがく、決して幸福ではなく、苦悩と苦労に満ちた主人公の生い立ち。
そして、主人公の兄も同様、目の前の問題、生きること、弟を養うことを考え、自分の本心を押し殺して日々を生きているらしいことが示唆されます。
そして、これは現実社会にも当てはまることであり、金を理由に目の前の生活を生きることに必死で、夢や目標を押し殺してそれに気づかずに生きる人に響く歌詞だと思います。
また、そうした意識と生活の中で、気付かぬうちに一層金への執着を強める社会に対するメッセージが込められています。
金(マネー)こそが全てであり、金(マネー)が全てを狂わせる。
いつか金を手に入れて望みを叶え見返してやる。
このメッセージには、金(マネー)さえあれば何でもでき、閉塞感に満ちた人生から抜け出せるという意味と、金がないことが全てを狂わせ、人を追い込んでいくという意味合いがあるように感じます。
金銭に対し行きすぎた万能感を抱き切望する、そんな時代を象徴しているかのようです。
表舞台で人々に賞賛され豊かな暮らしを送るスターを夢見る彼女は、主人公と愛を確かめ合った後にあっさりと金持ちの男とどこかへ消えてしまいます。
結局は金以外に確かなものなど無く、愛であっても金で買えてしまう。
これは省吾さんが「丘の上の愛」で描いた「愛とお金」というテーマと同じであり、普遍的なテーマです。
「丘の上の愛」では主人公の失恋を通じて、愛とお金どちらが大切なのかということを問いかけていますが、「MONEY」においては、金さえあれば愛も手に入るという、ある種行きすぎとも取れる一方で時代を強烈に切り取ったメッセージが込められています。
愛し合っていた彼女が金によって変わり、自分自身も金さえあれば彼女を取り戻せると思っている。
形は違えどお互いに金の力を信じており、それこそが自分の望みを叶える手段であり目的だと感じていることが伺える歌詞から、金に踊らされるばかりで、何一つ確実なものなどない社会において、信じられるものは何も無く、そこにいる人全てが敵であり、その先に希望はない。
閉塞感のある現状も自分自身も、周りも何もかもを捨て去りたい主人公の心の叫びと金に対する執着が垣間見えます。
目が眩む高級車も家も恋人も豊かな生活も、思い描くものは全てメディアの中にのみ存在し、自分の生活には存在せず願っても届かない。
一方で、メディアからは絶え間なく豊かな生活やモノの情報が発信され、欲望を刺激される。
しかし、何一つ自分の人生にリアルに存在するものはなく、欲望だけが掻き立てられていく。それを悪い夢だと形容している歌詞から、真の幸福とは何かについて考えさせられます。
失うものなど何もなく、帰るべき場所もない主人公は、メディアが煽る豊かな生活を手に入れることを夢見て、金を求める社会に身を投じることを決意します。
金が全てを狂わせることを知りながら、金さえ手に入れば何もかもが変わると信じてハングリー精神を剥き出しにする主人公。
バブルを目前にした日本社会のメンタリティを鋭く切り取っており、資本主義における普遍的な人の姿を表しています。
歌詞の魅力考察
「MONEY」は浜田省吾ファンのみならず多くの人に人気の楽曲ですが、実はシングルカットされたことがありません。
それにも関わらず多くの人に愛され、ライブコンサートでも定番の楽曲となっているのは、この曲の伝えるメッセージが多くの人の心に刺さるからだと思います。
「金が全てじゃない」というメッセージを伝える楽曲は多くありますが、金が全てじゃないとはいえ、何をするにも金が要るという現実はやはり無視できません。
そこにおいて、敢えて「MONEY」を前面に押し出した歌を作った省吾さん。
極端とも取れるあそのメッセージが人の心を打つのは、そこに誰もが感じている真実が含まれているからです。
誰でも大なり小なり金の力に目が眩み、金を追い求めることが全てだと考えている節があるのだと思います。
メディアが煽る豊かさや価値観に踊らされ、物質的な豊かさを追い求めても何一つリアルに自分の目の前に存在するものはなく、より一層金への執着を強めていく。身近にあるようでありながら一生手に入らないものばかりで、全てを破壊したくなる衝動に駆られる。
格差の広がりとその固定化という問題が深刻化している現状において、より一層リアルに感じられる歌詞です。
金銭的な豊かさによって勝者と敗者に分断され、その固定化が進む現代社会において、私はいつもイギリスの政治家であるチャーチルの言葉を思い出します。
資本主義の欠点は、幸運を不平等に分配してしまうことだ。社会主義の長所は、不幸を平等に分配することだ。
チャーチル
自由競争という名の下に不平等を受け入れる資本主義社会において、普遍的である格差と分断。
人の欲望を刺激し購買意欲を掻き立てるマーケティング。
「MONEY」は、資本主義が孕む多くの問題とそこに生きる人間の欲望や苦悩を1人の主人公の目線を通じて浮き彫りにし訴えかける名曲です。
また、「MONEY」は敢えて金を全面的に押し出した歌詞となっていますが、金を求めた社会が行き着く先で、本当に大切なものは何か、を問いかける名曲として「J.BOY」や「詩人の鐘」があります。
こちらも省吾さんを語る上で外せない名曲であり、深い洞察とメッセージに溢れた歌詞が魅力ですので合わせて聴いてみてください。
こんなシーンで聴いて欲しい
「MONEY」はここまでお伝えした通り、金をテーマとした力強いメッセージが特徴のロックナンバーです。
仕事や人生において、活力が欲しい時やエネルギーが必要な時に、必ず背中を押してくれます。
特にライブコンサートで歌われる「MONEY」は、魂に響く音楽と歌詞のメッセージが合わさり胸を打ちます。
アルバムやストリーミングで聴く歌も素晴らしいですが、「MONEY」は是非コンサートで省吾さんの生の声を聴いて欲しい名曲の一つです。
最後に
最後までお読みくださりありがとうございます。
「MONEY」は省吾さんのロックナンバーの中でも常に上位に入り、何度でも聴きたくなる正に名曲です。
収録アルバムを以下にご紹介していますので、是非聴いてみてください。
そしてできればコンサートで、その生の歌声に触れてもらえればより一層楽曲の魅力が伝わると思います。