愛の世代の前に 歌詞の意味・魅力考察 浜田省吾

tsumakawa

愛の世代の前に

愛の世代の前に」は、1981年の9月に発表された省吾さん7枚目のアルバムの表題曲であり、”社会派”と呼ばれる省吾さんを代表する名曲です。

アルバムは1982年の1月に敢行された自身初の日本武道館公演に向け作成されたもので、タイトルの「愛の世代の前に」とは、「地球上から核兵器が根絶されない限り、本当のラブ・ジェネレーション(愛の世代)は訪れない」という意味が込められています。

楽曲の中には戦争や原爆を彷彿とさせる描写や平和へのメッセージが散りばめられており、力強いロックと共に胸に響く歌詞が魅力です。

歌詞概要

https://www.uta-net.com/movie/107/

愛の世代の前に」は、印象的でハードなギターリフのイントロから始まります。

平和という幻想が儚く崩れ、核という脅威の下で生きるしかない人類への憂いや哀しみを感じさせる歌詞からは、怒りにも似た感情と平和への祈りを感じられます。

いつか破綻が来ることを知りながら刹那的な生き方に没頭する生き方や、孤独を抱えながらひと時の安らぎに身を委ねる姿からは、1980年代から90年代にかけての空気感と、それらが積み重なって様々な問題として顕在化している現代社会を表しているように思えます。

誰もが夢見る平和と調和のとれた「愛の世代」は核の脅威によって遠ざかり、今を生きる人間と社会が過去から学び認識を改め生き方を変えない限り次の世代は訪れない。

そんな中で、憂いを見過ごし身勝手な賭けに興じ、刹那的な慰めに縋るしかない生き方に対する徒労感と葛藤を感じる歌詞は、聴き手に多くのことを問いかけます。

歌詞の魅力考察

この楽曲は、80年代の省吾さんの特徴であるロックを色濃く反映した名曲であり、ファンの間でも人気が高く、ライブコンサートではいつも会場が揺れるほど盛り上がります。

一方、その歌詞は重く抽象的な部分もあり、さまざまな解釈や気付きを得られる奥深いものとなっています。

特に、歌詞の中で語られる「ゆめ」は誰かにとっての「希望」であり未来への「計画」であり儚く消える「幻想」を意味しています。

明るい未来への希望や計画が打ち砕かれ、それが幻想だったと知る。

一見豊かに見える現代社会も、多くの問題を孕んでおり、人類を一瞬で消し去る兵器がこの瞬間確実にこの世に存在しているという事実に気付いた時、その見え方が大きく変わります。

1945年以降に続く冷戦および度重なる国際問題や紛争の裏には核の脅威が存在し、その大国間の脆く危ういパワーバランスの中で国際社会は成り立っており、好むと好まざるに関わらず、誰もがその中で生きている。

その事実を胸に「愛の世代の前に」を聴くとき、この名曲が発表された1981年当時よりもより大きな意味を持って聴き手の心に響きます。

国際社会が多くの困難や問題に直面する度、省吾さんの他の名曲がそうであるように、楽曲の歌詞とメッセージがより大きなリアリティを持つようになります。

他の名曲との繋がり

自分自身のルーツから生きる意味と存在価値を見出し、争いを無くし、痛みに寄り添い、愛を以て凄惨な過去や辛い現実を乗り越え次の世代へとこの世界を繋ぐこと。

それがシンガーソングライターであり数多くの名曲を発表している省吾さんの根底に流れるテーマであり楽曲に込められた普遍的なメッセージであるように思います。

「愛の世代の前に」の根底にあるメッセージは、後に発表される省吾さんの楽曲へと引き継がれており、色褪せず時が経つにつれて深みの増す歌詞はいずれも一度聴いて欲しい名曲揃いとなっています。

僕と彼女と週末に

僕と彼女と週末に」は、1982年発表のアルバム「PROMISED LAND」のラストとなる11曲目を飾る名曲です。

曲名の”週末”は恋人達の”WEEKEND“と人類/地球の”終末“を表すダブルミーニングとなっており、その曲名が表す通り恋人達が過ごす週末のストーリーを通じ、人類と地球の行く末に対する憂い、メッセージを伝える壮大な楽曲となっています。

曲の合間の語りなど、テーマから歌詞のメッセージと構成まで、省吾さんの魅力の詰まった名曲です。

RISING SUN -風の勲章

RISING SUN ―風の勲章」は1988年発表のアルバム「FATHER’S SON」収録曲であり、「アメリカと日本」「父と子」の関係性を通じ戦後日本をあり方を問うアルバムテーマにふさわしい名曲です。

資本主義に傾倒する中で金銭的な豊かさだけが絶対的な価値観となり、守るべき誇りや目指すべき目的地を見失った社会において、何を抱きどこに進むべきか、そんな迷いと葛藤を落とし込んだ歌詞が特徴的な一曲です。

歌詞には、現在の日本社会の構造と豊かさのルーツとして確かにそこにある1945年の敗戦への想いと、その記憶と認識が薄れ、行き過ぎた資本主義に傾倒しつつある現代社会への批判が込められており戦争が遠い昔の歴史となり、平和と豊かさを享受できるようになったこの国において、本当に大切にすべきものと守るべきものは何なのか、そういったことを問いかけるメッセージが「RISING SUN」の魅力です。

詩人の鐘

詩人の鐘」は、1990年6月21日発表の浜田省吾12枚目のアルバム「誰がために鐘は鳴る」の10曲目に収録されている実質的なアルバムの表題曲です。

“1999年7の月に人類が滅亡する”というノストラダムスの大予言による陰鬱な空気と、バブル崩壊後の経済低迷が相まって日本が失意に沈む前、バブル崩壊の兆しが少しずつ見え隠れする中で、当時の日本の現状、世界の現状、行き過ぎた資本主義に傾倒する人々に対し警鐘を鳴らす歌詞となっています。

権力と富こそが絶対の社会の中にあって、その裏で虐げられ忘れ去られている人や国も人類の一欠片であり、遠く離れた自分とは関係のない別の世界の出来事ではない。

自己中心的なエゴと欲に目が眩んだ現代社会の裏で犠牲になっている人の存在は、そのまま同時に自身の身を削ることと同義だと訴えるメッセージは、聴くたびに胸に響きます。

アジアの風 青空 祈り part-2 青空

アジアの風 青空 祈り」は浜田省吾17枚目のアルバム「Journey of a Songwriter 〜 旅するソングライター」14-16曲目に収録されている楽曲です。

3部作のうち2曲目の「アジアの風 青空 祈り part-2 青空」のテーマは叫びや怒りにも似た平和への想いであり、戦後や震災を乗り越え歩んできたこの国への想いと、この世界の将来に対する強い願いと憂いが表現されています。

特にこの「part-2 青空」は、先に紹介した「僕と彼女と週末に」と同じく人類や地球への愛を感じさせる壮大なテーマを扱う楽曲となっており、省吾さんらしい、詩的で比喩的な歌詞に込められた多くのメッセージは聴く人の心に響きます。

人類が手にした科学技術とそれらを基に作られた兵器と、その恩恵で成り立つ現代社会。

科学技術や社会の仕組みはうまく使えば全人類が豊かで幸せになれる一方で、目先の利益や短期的な欲望に囚われ使い方を誤ると子々孫々に至るまで計り知れない影響と負の遺産を遺すことになる。

そんな、一見すると繁栄の絶頂にありながら多くのリスクや破綻の可能性を孕んでいる国際社会への強いメッセージを感じる名曲です。

関連情報

省吾さんの楽曲は様々な場所で用いられており、ファンの間でもよく話題にあがります。

社会人を経て、2018年ドラフト5位で東京ヤクルトスワローズ入団した坂本光士郎投手は、過去省吾さんの名曲「ON THE ROAD」と「MONEY」を自身の登場曲として使用していました。

トレードで移籍したロッテにおいては、今回ご紹介した「愛の世代の前に」を登場曲として使用しており、省吾さんと同郷の広島県出身の坂本選手は父の影響で省吾さんファンとなり、「一番最初に覚えた曲は浜田省吾さん」と語っています。

歌詞のメッセージや重厚感のあるテーマとは裏腹に、力強いロックであるこの曲は聞き手を鼓舞する力を持っているため、是非ともライブコンサートなどで生の演奏と歌声と共に盛り上がってほしい名曲の一つです。

最後に

最後までお読み下さりありがとうございます。

警察官であり、1945年の広島で被爆した父を持つ省吾さんは、今の社会を生きる多くの人よりも戦争や原爆への想いや平和への祈りが強く、その特徴と魅力が「愛の世代の前に」には詰まっています。

考えさせられる深いメッセージと祈りが込められた歌詞でありながら、ロックミュージックとしての力強さを持ち聴くたびに鼓舞される点が魅力のこの曲はファンの間でも長年に渡り愛されています。

省吾さんの楽曲において、多くの人に聴いてほしい名曲ですので、気になった方はぜひ聴いてみて下さい。

ABOUT ME
tsumakawa
tsumakawa
胎教の時から浜田省吾を聴き続け、サングラスをかけて生まれた28歳。省吾さんの魅力を伝えるべくブログ執筆中。
記事URLをコピーしました